離婚時の対応が不十分だと後日になって後悔することが多い問題の1つが持家と住宅ローンです。
離婚前には夫婦共同で購入した持家を離婚後にどちらの所有にするのか、どちらが居住し続けるのか、そして残った住宅ローンはどうすれば良いのかなど決めなければいけないことがたくさんあります。
住宅は価値が大きく生活にも密接に関係する資産であり、さらに住宅ローンは長期に渡って返済が必要となります。
離婚時に扱いをしっかりと決めておかないと、離婚後に大きなトラブルに発展することもあります。
今回は離婚時に持家や住宅ローンに関して注意すべきポイントや対応方法をご紹介します。
権利関係の現状確認
離婚時に夫婦で取り決めをする前に、前提となる住宅の名義や住宅ローンの契約内容といった項目に関して、現在の状況を確認しておく必要があります。
また、住宅や住宅ローンがどういった権利関係になっているかを確認して整理しておくことも大切です。
最初に離婚について協議を始める前に確認しておくべ項目について解説しておきます。
住宅の所有者・名義
最初に住宅の所有者が誰なのかを確認する必要があります。
所有者を確認するためには法務局で住宅の土地・建物ごとの登記簿謄本を取得する必要があります。
登記簿謄本は対象となる持家の住所を確認したうえで、管轄の法務局に行けば誰でも取得することができます。
住宅の評価額
住宅の価格・時価も確認しておく必要があります。離婚の際に持家をどう扱うのかを決めるうえで、現在の持家の時価・価額を確認しておくことは重要です。
この時、無料で査定を行ってくれる不動産業者に査定を依頼するのが便利です。
不動産業者では近隣の売却事例などを参考として参考価額を出してくれます。
2~3社程度の査定を取得すれば蓋然性の高い評価額と判断することができるでしょう。
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住宅ローンの契約内容詳細
住宅ローン自体の契約内容を確認する必要があります。
どちらか一方が単独で借入している住宅ローンなのか、もしくは連帯債務や、ペアローンといった方法で住宅ローンを借入しているのか、さらに夫婦のどちらか一方が連帯保証人になっていないかを確認しておきましょう。
住宅ローンの契約内容を確認するにあたっては、借入当時の契約書一式の控えを見る必要があります。
また、借入後に契約内容を変更している可能性もありますので、変更契約の控えがあればこちらも確認しましょう。
なお、住宅ローン借入時に特に多い契約パターンは以下となります。
<住宅ローンで多い権利関係>
契約パターン | 夫 | 妻 |
夫単独借入型 | 債務者 | 権利関係なし |
連帯保証型(収入合算など) | 主債務者 | 連帯保証人 |
連帯債務型 | 連帯債務者 | 連帯債務者 |
ペアローン型 | 一部:主債務者
一部:連帯保証人 |
一部:主債務者
一部:連帯保証人 |
住宅ローンの返済状況
現在の住宅ローン残高や、今後の返済が必要となる期間なども確認しておく必要があります。
前述で確認した不動産価額(不動産会社の査定結果)に比べて、住宅ローンの残高が上回っているのであれば、住宅を売却しても住宅ローンを完済できないということになります。
この時、夫婦が離婚したとしても住宅ローンに残債が残ることになり、以降の返済について考えておく必要があります。
一方、不動産会社の査定が住宅ローンの残債を上回るのであれば、住宅を売却することで住宅ローンを完済でき、さらにお金が残ることになります。
この残るお金を夫婦でどのように分割するのかを考える必要があります。
住宅ローンの借入残高は銀行に問い合わせすれば確認できますし、現在はホームページなどの借入人専用サイトなどから確認できることもあります。
<住宅ローン残高と住宅価格の関係>
タイプ | 名称 | 検討事項 |
住宅ローン残高 > 住宅価格査定 | オーバーローン | 住宅を売却しても住宅ローンを完済できない状況。どちらか一方が居住を継続し、住宅ローン返済を継続するのが一般的。売却する場合は残債の返済方法を決める必要があります。 |
住宅ローン残高 < 住宅価格査定 | アンダーローン | 住宅を売却して住宅ローン完済後に残るお金を夫婦で分けるのが一般的です。売却しない場合、住宅をどちらの名義にするのか、住宅ローンを誰が支払うのか、住宅の所有者とならない方が財産分与としていくら受け取るのかなどを検討する必要があります。 |
ケース別の問題点と対応方法
それでは、次に住宅の処分方法別の問題点と対応方法について整理していきましょう。
夫婦離婚後の住宅の処分方法として持家を売却する方法と、夫婦のどちらか一方が住み続ける場合が考えられます。
なお、今回はモデルケースとして夫が住宅ローンの主債務者・夫が100%所有者となっていることを前提としてご説明します。
持家を売却するケース
離婚後の夫婦のどちらも現在の住宅に居住せず、持家を売却してしまうケースになります。
この時、オーバーローン(住宅ローンの残高>住宅の査定価格)であれば、住宅売却後・住宅ローン完済後、売却に伴う諸費用・税金控除後に残るお金について財産分与を考える必要があります。
財産分与は原則夫婦で2分の1ずつとなります。
財産分与が終了すれば住宅や、住宅ローンに対する処理は完了しますので、比較的問題が少ない処理方法と言えるでしょう。
一方、アンダーローン(住宅ローンの残高<住宅の査定価格)の場合、住宅を売却してもお金は残りませんのでプラスの財産分与の対象とはなりません。
住宅売却後に住宅ローンが残ることになりますので、住宅ローンの返済方法や、どのように返済責任を負担するのかを考える必要があります。
住宅ローンの残高が過大であり、持家売却後にも多額の負債が残ってしまい、完済できる見込みがないのであれば、自己破産や任意整理によって借金を整理する必要もあります。
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夫が住宅に居住継続する場合
住宅ローンの主債務者である夫が離婚後も継続して持家に居住するケースです。
このとき、対象となる持家の所有も夫が100%であり、妻が住宅ローンの権利関係に関係がない(連帯保証人になっていないなど)のであれば、そのまま本人が居住して、住宅ローンの支払いも継続していくだけです。
そのため、住宅ローンを借入している銀行など、対外的な権利関係などに変更の必要はありません。
しかし、妻が住宅ローンの連帯保証人や連帯債務者となっている場合、離婚時に住宅ローンの返済責任を夫が負うと決定したとしても、銀行に対する返済責任は妻も負っている状態のままです。
銀行に対して離婚を原因として、妻を連帯保証人から外してもらうように相談することは可能ですが、銀行から認めてもらえないこともあります。
夫婦の離婚などの事情は銀行との契約関係においては関係ありませんので、例え離婚したとしても銀行が連帯保証人解除に応じる義務はありません。
借入時に収入合算を活用した場合などは特に、夫の収入が大きく上昇していたり、繰り上げ返済などで住宅ローンの残債が大幅に減少しているなどの事情がないと認めてもらうのは難しいでしょう。もしくは、別の連帯保証人を探すなどの対応が必要となります。
なお、不動産会社の査定価格が住宅ローン残高を上回っている「オーバーローン」の場合、財産分与についても取り決めをする必要があります。
一般的には、夫が離婚の際に、その住宅ローン残高を上回っている価値の半分を妻に対して支払うことになります。
さらに、妻がこれまでに固有財産から住宅ローンの一部を支払っていたなら、その金額も財産分与時に清算することを検討しなければいけなくなります。
妻が住宅に居住継続する場合
夫が住宅の所有者であり、住宅ローンの主債務者となっているものの、離婚後は妻が住宅に居住するケースとなります。
一般的に、離婚原因が夫にある場合などに良く見られるケースでもあります。
この時、様々な問題点があげられますので、良く検討しておく必要があります。
この時、離婚後の住宅ローンをどちらが返済するのかで注意点が異なりますので、それぞれに分けて解説しましょう。
①夫が住宅ローンを支払う
離婚時の協議として、夫に離婚原因があって慰謝料代わりに住宅ローンを支払う、もしくは妻が子供の親権者となり、養育費の代わりとして夫が住宅ローンを返済継続するように約束することがあります。
この時、離婚当初にしっかりと約束しても、後から問題が起こることがありますので要注意です。
夫は離婚後に自身が居住していない家の住宅ローンを払い続けることになります。
離婚当初は良くても、その後の生活状況の変化(再婚や転職など)によって、住宅ローンの返済を継続することが難しくなってくることもあります。
そして、夫が住宅ローンの返済を滞らせるようになると、銀行が強制的に住宅を売却してしまうこともあります。
そうなれば、妻としても住宅から立ち退かざるを得ないことになりますので、住宅に対して不安を抱え続けることになります。
単に住宅の名義を妻に変更したとしても、夫が住宅ローンの返済を行わなければ、住宅の売却を阻止することはできませんので、銀行や弁護士などの専門家と対応を協議しておくことがおすすめです。
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②妻が住宅ローン返済を負担する場合
前述のような夫の延滞を防止する方法の1つとして、住宅の名義に加え、住宅ローンの返済を妻が行う方法が考えられます。
それでは、既に夫が住宅ローンの債務者となっている契約を、妻が債務者となるように契約を変更することができるのでしょうか。
こういった住宅ローンの債務者変更には銀行の承諾が必要です。
しかし、妻に夫以上の返済能力があるなど、経済力がなければ銀行は認めてくれません。
一方、住宅ローンの債務者を夫として残した状態で、妻が実質的に返済を継続していくことは可能です。
例えば、夫名義の住宅ローンの返済用口座に対して、毎月妻が返済に必要な額を入金し続けるといった方法があげられます。
銀行に対しては、債務者が夫のままの状態が続きますが、実質的な返済を妻が行っているわけです。
この時、夫側にも将来的な問題が起こり得ますので注意が必要です。
離婚時の協議として、住宅ローンの債務者は変更しないが、返済は妻が行っていくと決めたとしても、銀行に対する返済責任は夫が負います。
将来的に妻が返済できなくなって延滞になると、銀行からの督促は夫に対して行われますし、契約上の返済責任も夫が負っています。
仮に、住宅を売却したとして、その後に住宅ローンが残ってしまうと、夫に対して返済が求められます。
③住宅の所有者変更
妻が住宅に居住し、住宅ローン返済を行っていく場合には、住宅の所有権も妻に移転させたいと考えることが多いでしょう。
でなければ、せっかく妻が住宅ローンを返済しているにもかかわらず、夫が勝手に住宅を売却してしまうという危険性もあります。
また、夫が何らかの理由で死亡したとすれば、夫の資産として相続の対象にもなってしまいます。
住宅ローンの完済前に所有権を変更するには、銀行に対して相談し同意を得る必要があります。
しかし、銀行としても、以降の返済や担保処分時の問題を懸念して同意してくれないケースが多くみられます。
そのため、離婚時の住宅ローンの権利変更や、住宅の所有者変更には専門家の協力を得て、銀行などと相談する必要があります。
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まとめ
住宅購入時には夫婦一体となって住宅ローンを借入、共同で返済していくことを予定していても、住宅ローンの返済期間は長く、その後に離婚によって状況が変わってしまうケースは少なくありません。
離婚時には、住宅を売却するのか、もしくはどちらかが居住を続けるのか、さらに、住宅ローンの借入残高と住宅の査定価格の状況によって注意点や対応方法が異なってきます。
夫婦が離婚する際の注意点や対応を間違えてしまうと、後になってから失敗が明らかになり、後悔することもありますのでご注意ください。